公益社団法人 日本医学放射線学会

学会案内

学会からのメッセージ

前理事長挨拶

 日本医学放射線学会は、「放射線科学及びその関連分野に関する学術について研究発表、知識の交換、会員相互及び内外の関連学術団体との連携協力等を行うことにより、これらの分野の進歩・普及・啓発を図るとともに、安全で質の高い医療を提供するための事業活動を通して、国民の健康と福祉の増進に寄与すること」を目的として活動しています。2018年4月より本田 浩 前理事長(九州大学 教授)の後任として、理事長を拝命いたしました東海大学医学部の今井 裕 です。青木 茂樹
副理事長(順天堂大学 教授)をはじめとする16名の理事と2名の監事の先生方とともに、日本医学放射線学会の発展のために大いに貢献する所存です。本学会は、2018年7月現在で9752名もの学会員数を擁する大きな医学会に成長しています。
 我が国の放射線医学の歴史は、1895年11月8日にドイツの物理学者であるレントゲン教授がX線を発見してから僅か10ヶ月後の1896年(明治29年)に島津 源蔵氏の手によって日本で最初のX線写真が撮影されています。その後、1913年(大正2年)には、東京と大阪でレントゲンに関連する研究会が発足し、1923年(大正12年)には、「日本レントゲン学会」が創設され、1933年(昭和8年)には、新たに「日本放射線医学会」が発足しました。その後、1940年(昭和15年)には、「日本レントゲン学会」と「日本放射線医学会」が統一され、「日本医学放射線学会」が設立され、翌年4月に第1回日本医学放射線学会総会が、初代会長 真鍋 嘉一郎先生のもとで開催されています。その際の特別講演は、1949年(昭和24年)に日本人として初めてノーベル賞を受賞された湯川 秀樹先生による「放射線と物質」でありました。
 現在の日本医学放射線学会では、2016年6月よりJapan Safe Radiologyアドホック委員会を設置し、今後の放射線医療の質や安全性を確保するための種々の施策を検討しています。検討項目としては、①医療機器や放射線専門医の適正配置、②装置メンテナンスの安全管理、③Choosing Wiselyを含めた機器の適正使用、④診断参考レベル(DRL)をはじめとする被ばく管理、⑤画像バイオマーカーの開発と検査の標準化のためのQIBA(quantitative imaging biomarker alliance)の取り組み、さらに⑥報告書の質保証などが挙げられます。そのために画像医療情報におけるビッグデータを全国規模で集積した画像診断ナショナルデータベース(Japan Medical Image Database: J-MID)の構築を目指し、人工知能も活用して医療現場におけるQuality Controlに活用できるシステムの構築を考えています。
 また、日本医学放射線学会の専門医制度は、日本専門医機構の認可する19の基本領域の一つとなっており、現在はサブスペシャリティとして、放射線診断専門と放射線治療専門医を構築する作業を行っています。この他にも、多くの課題が山積していますが、学会の皆さまと一緒に、我が国における放射線医学ならびに医療の発展に向けて進みたいと思います。ご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

公益社団法人日本医学放射線学会
理事長 今井 裕
(東海大学 教授・副学長)

 


 

画像診断報告書の確認不足等に関する医療安全対策についての見解

平成30年7月19日

 日本医学放射線学会は、「放射線科学及びその関連分野に関する学術について研究発表、知識の交換、会員相互及び内外の関連学術団体との連携協力等を行うことにより、これらの分野の進歩・普及・啓発を図るとともに、安全で質の高い医療を提供するための事業活動を通して、国民の健康と福祉の増進に寄与すること」を目的として活動しています。
 画像診断技術は、近年急速に進歩し、医療の根幹を担うようになっています。放射線科診断専門医は、これらの画像診断の際に、画像診断報告書を作成するだけではなく、画像診断全般の安全管理、検査方法の管理、精度管理等を行っており、画像診断の質を担保するとともに、最新の技術が、国民および患者に安全に提供できるように日々業務にあたっています。
医療の高度化に伴い、画像診断の件数や撮影された画像数は増え、情報量は著しく増加しています。また一方で、各臨床医の専門特化も進んでいます。放射線科診断専門医は増加する情報を適切に管理し、各臨床医へ情報提供するとともに、専門特化した各臨床医に対し、横断的な視点で適切な情報を提供する役割も担っています。

 今般、画像診断報告書の確認不足等により診断が遅れ、それにより治療開始の遅延が原因で患者が死亡した事例が報告されました。
 画像結果の報告書が主治医に認識されない要因を列挙します。第一に、増加する情報量に対し、放射線科診断専門医の増加が追い付いていない現状があります。画像診断は近年急速に進展し、医療の根幹を担うようになりました。放射線診断専門医が画像診断報告書を作成することや、画像診断の安全管理を行うことは、ますます重要になってきている一方で、画像診断の撮影件数は著しく増加しており、専門医の数を欧米並みに増加させる必要があります。第二に、医療の高度化により専門分化が進んだことが挙げられます。各専門領域の主治医は、各々の専門領域へ対する高度な知識が求められ、それに注力するため、他領域への十分な知識を有することが困難となっています。この点で画像診断に関し、広い領域での知識をもち、横断的視点で適切な画像情報を提供できる放射線科医による診断が、今後さらに必要となります。第三に、各医療者間のコミュニケーションの不足があると思われます。各診療科の主治医と放射線科医がより密接に連携し、良好なコミュニケーションや連携体制を確立することが重要です。
 その他にも、主治医がオーダーする検査数の増加により、主治医自身がその結果を消化しきれなくなっていること、画像検査の高度化により診断結果報告書内に記載されている情報量が多く、結果報告書を容易に理解できなくなっていること等、多くの要因が挙げられます。これが複合的な要因となって発生したものと考えられます。
 これらの解決策として、まずは、各医療機関の取り組みとして、画像診断報告書を必ずチェックする仕組みを電子カルテあるいはPACS上で構築することが求められます。放射線科医も危機的所見や緊急を要する所見を画像上で発見した際には、ルーチンの報告手段、すなわち電子カルテやレポートへの記載等による方法とは異なる手段を試みる必要があります。主治医が予期していなかった所見を、放射線診断医が発見した場合の対応を一律に規定することは困難です。これらについては、厚生労働省をはじめとする関係者と連携し、適切な制度設計、政策立案等を推進していく予定です。
 ただし、日本医学放射線学会は、患者に対し提供されるべきものは、整理された適切な情報であるべきだと考えています。画像診断報告書を患者にそのまま提供するという対応方法を検討している医療機関もあるようですが、多くの患者は大量の医療情報を正確に把握し判断できないと思われます。また、医療上の責任を患者側に転嫁するかのような考え方は、医療人としては看過できません。

 さて、諸外国でも同様に画像診断報告書の確認不足の問題が指摘されています。英国のThe Royal College of Radiologists (RCR)では、主治医側に的確に伝えるべき画像所見を下記のように分類しています。
① Critical findings (危機的な所見)
② Urgent findings (24時間以内に緊急を要する所見)
③ Significant unexpected findings (患者にとって重要で、かつ主治医が予期していないような所見)
 上記の①と②に分類される画像所見は、多くの場合、主治医も緊急性を理解しており、大きな問題となることは少ないと思われます。一方で、③に分類される所見は、その所見が主治医の専門外の疾患に関連した場合等には、臨床に反映されない可能性が起こりえます。また、これらの画像所見を診断した際には、ルーチンの報告手段、すなわち電子カルテへの記載等による方法を補完する手段を用いることが提言されています。我が国でも、これらの取り組みを推進すべきであると考えています。

 画像診断の精度や安全性を担保する取組は、今回問題となった高度急性期病院だけでなく、日本全国の医療機関で重要な課題です。無駄な画像診断をコントロールしつつ質をさらに高める取り組みが重要になっています。今回の画像診断報告書の確認不足等が原因による患者死亡などの事例は、放射線診断専門医による診断がいかに重要であるかを示しています。今後も日本医学放射線学会は、不足している放射線診断専門医の数を増やし、より質の高い画像診断報告書を提供できるように尽力すると同時に、医療被ばく低減や検査適応の適正化を含めた放射線医療の発展に努め、国民が安心・安全な放射線医療を受けられるよう引き続き努力していく所存です。