公益社団法人 日本医学放射線学会

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2011年03月28日

緊急被ばくの事態への放射線科医としての対応について(2011/03/28更新)

平成23年3月28日11:00現在

日本医学放射線学会、放射線科専門医会・医会 会員各位

緊急被ばくの事態への放射線科医としての対応について

日本医学放射線学会理事長 杉村 和朗
放射線防護委員会委員長 中村 仁信
同委員 大野 和子

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖大地震の後、東京電力福島原子力発電所で放射性物質の放出が生じた。現在原発周囲半径20キロ圏内の住民が退避している。
日本医学放射線学会、放射線科専門医会・医会は、被災された皆様、被災地で活動を続ける会員各位へ衷心からお見舞い申しあげる。

現在、関東以西の状況は落ち着いているが、今回の一般市民の放射線汚染報道以後、全国の医療機関に不安を持った住民が受診している。
被災地以外の医療機関に勤務する放射線科医にも適切かつ冷静な判断をお願いする。
以下に、これまで会員から寄せられた質問等をもとに当会としての見解をQ&A形式でまとめた。

文部科学省は放射線医学総合研究所のHPトップに、我々から寄せられた質問の中から、早期対応が必要な項目を選んで、放射線医学総合研究所HPのトップページへ順次掲載している。こちらも適宜参照してほしい。またQ&Aの最後に放射線防護に関係する情報機関名を収載した。

会員諸氏が放射線診療の専門家として各地で適切な対応を取ることを切に希望する。

Q1 放射線被ばくに不安がある市民からの電話相談について

A1  現状から考えると、万一被ばくをしていても市民への健康被害は及ばない範囲である。各地の病院スタッフは、悪性腫瘍や急性外傷等の患者の健康を守るため に日常診療を行っている。病院事務課、交換台との事前の打ち合わせをし、彼らから対応させてほしい。「現状では市民への健康被害はないこと、医師が個別健 康相談に対応していると診療が停止する」ことを伝える必要がある。どうしても不安な場合は、メールで放射線医学総合研究所、日本医学放射線学会のHPまで 相談者本人が連絡を入れるように伝えること。但しいずれも問い合わせが殺到しており、代表的な相談事例を優先して解答していることを申し添えておく。
放 射線計測による汚染検査を依頼された場合には、原子力災害対策特別措置法に基づいて指定されている各都道府県内の病院での施行が順当と考える。但し、現在 地域によっては消防署が対応するなど統一は計られていないので、事前に所轄の保健所を通じて行政に問い合わせておくこと。今後学会からも厚生労働省に申し 入れをして、全国統一の対応が可能となるように働きかけを続けていく。

Q2 被災者が汚染の有無の確認目的で直接受診した際の注意点

A2  3月11日以後福島以北滞在していた患者や市民が、病院を直接受診した際には、受診目的を充分に確認する。目的の多くは不安解消の健康相談であり、メン タルヘルスケアの見地から対応する。汚染計測を希望している場合はサーベイメータを用いた計測を実施し、表面汚染を確認する。
なお、可能な限り現地移動時と同じ服装で院内へ入らないように、初診受付等に対応を事前に指示しておく必要がある。入り口にインフルエンザ対応と同様にテントを用意した病院もあるが、現状では全国横並びの対応は困難と考える。
現地と同じ服装で受診した場合は、受付でビニール袋を渡し、最も外側に着ていた着衣を入れさせること。
 現在のところ、測定値がバックグラウンドよりきわめて高い数値を示したとの報告はほとんどないが、放射線被ばく緊急医療ネットhttp://www.remnet.jp/index.htmlに詳細が記載されている。
 これまでのところ、表面汚染については、自動車表面に付着した放射性物質が原因と見られる場合が殆どである。自動洗車機等を用いた自動車の洗車も指示してほしい。これは受診者の再汚染防止に効果的である。

Q3 サーベイメータ計測値からの線量推計

Q3 サーベイメータ計測値から具体的な被ばく線量の換算は、医療機関では困難である。自然界の放射線量と比較した高低で放射性物質の付着の有無を確認する目的であることを理解させる。

Q4 放射線の健康影響などの基礎知識のまとめ

Q4 現在多くの発表はμSv(マイクロシーベルト)/時の放射線量を用いている。
年間の自然放射線量は日本では2,000~3,000μSv(2~3mSv)である。
500mSv以上の全身被ばくがなければ、通常の血液検査値の変動は無い。
また、発がん性の影響については、100mSv以下では影響を考慮する必要はない。
な お、最新の知見として現在世界中からのパブリックコメントを募集しているICRP の Tissue reaction report では、chronic radiation syndrome 発症のしきい値は 1Gy/年 としている。2Gy以上の緊急被ばく医療が必要な患者に被災地以外で遭遇することは今後も考え難いが、万一の場合は、病院の立地場所により各都道府県内に 原子力災害対策特別措置法に基づいて指定した拠点病院がある。事前に確認をしておく。
時間的余裕のある会員は、放射線科専門医会の会員はミッドサマーセミナの防護・管理のスライドで知識の再確認をお願いする。

Q5 マスコミ等が発表しているモニタリング結果の見方。

A5  現在の東京電力が公開している計測値は原発の敷地境界での測定結果である。そもそもこの計測ポイントは公衆の被ばくを最大限多く見積もるために、敷地に 隣接して24時間人が存在することを仮定して公衆の線量限度を定めたことに起因する。放射線の量は距離の二乗に反比例する。したがって、実際に住民の住居 がある場所ではきわめて小さな値になる。例えば半径1キロ地点で1,000μSv/時としても半径20キロ地点では2.5μSv/時まで減衰する。
さらに、室内に退避することにより、外部からの放射線を90%程度遮蔽することができるので0.25μSv/時μまで減衰する。また服装も皮膚を露出しない、帽子や手袋、マスクの着用により放射性物質の直接身体への付着を防止できる。

Q6 具体的な事例相談

Q6-1 放射線防護剤(安定ヨウ素剤)を求められた場合
ヨウ素剤の配布を被災地以外で配布する可能性はきわめて低いが、マスコミ報道等により一般にひろく情報が普及している。島国の日本では従来甲状腺内のヨウ素が充分であることを説明する。また日常の献立に一品海草類を加えれば充分であることを伝える。

Q6-2 妊娠中の母親への対応
 被災地以外に居住する母親の胎児への影響は考慮する必要は無い。
 
こ れまでの空間線量から考えると、母親の内部被ばくは考慮の必要がないほど低いものと考える。従って、胎盤移行による胎児の直接被ばくを含め重大な影響が生 じる可能性は極めて乏しい。しかし、特に妊娠初期の母親は精神的に不安定であり、特別な配慮が望まれる。今後被災地からの妊婦の移動増加が予測されるた め、日本産婦人科学会とも連携し妊婦の適切な対応を呼びかけていくが、院内の産婦人科医との事前打ち合わせを行い、妊婦を不必要な不安に陥れないように対 応すること。

Q7 放射線防護に関するHP一覧

A7 放射線防護に関するHP一覧について列記した。参考にされたい。

放射線医学総合研究所
http://www.nirs.go.jp/index.shtml
    文科省と連携して順次新しい資料を提供中

緊急被ばく医療研修(REMNET)
http://www.remnet.jp/index.html
    JCOの事故後に立ち上がった
緊急被ばく医療に関する基礎知識、安定ヨウ素剤の投与方法
心のケアに関する無いようも収載

日本放射線科専門医会・医会
http://www.jcr.or.jp/
    ミッドサマーセミナの防護・管理の教育講演資料あり

福島県原子力センター
http://www.atom-moc.pref.fukushima.jp/dynamic/graph_top.html
    福島の環境放射線計測結果