公益社団法人 日本医学放射線学会

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2020年04月24日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する胸部CT検査の指針(Ver.1.0)

はじめに
胸部CT検査の適応に関しては、①疾患に対するCTの診断能、②検査室の感染拡散の問題、③X線被ばくのデメリット、④地域の感染状況の4点を考慮して総合的に判断することが重要である。なお、国内のCOVID-19の状況は刻々と変化しており、本指針は、地域の感染状況や各施設のCTの活用状況により、柔軟に運用することが望まれる。

Q1. CT検査における注意点は?

A1-1. CT検査室での感染対策が必須である。
患者には必ずサージカルマスクを着用させる。医療スタッフはアイシールドつきサージカルマスク(ゴーグル+サージカルマスクでも可)、キャップ、長袖ガウン、手袋を着用する(*)。濃厚接触が想定される場合(造影剤の使用や介助が必要な場合など)はN95マスクの使用も検討する。施行後は、次の患者を撮像する前に、十分な換気と患者の接触部位のアルコールや抗ウイルス作⽤のある消毒剤含有のクロスを用い清拭消毒を必ず行う。なお、CT待合室での院内感染対策も考慮し、確定患者、あるいは疑い患者とそうでない患者の接触をさけるように配慮する。


(*長崎大学病院感染制御センターのCOVID-19対応マニュアルより引用)

A1-2. すりガラス影の検出が確実にできる撮像条件が必要である。
最も頻度の高い所見であるすりガラス影の検出のためには、スライス厚2mm以下の薄層CTが必須である。線量に関しては各施設のCT機種等に依存するが、すりガラス影が確実に検出できる線量での撮像が望ましい。

Q2. クラスター(疑い含む)集団へのCT検査は必要か?

A2. 原則、スクリーニングとしてのCT検査は推奨できない。以下に理由を示す。
1) PCR検査が陽性のクラスター集団で、無症状例の46%,有症状例の20%に、CT陰性(偽陰性)例が存在する。
(Inui S. et al. Chest CT Findings in Cases from the Cruise Ship “Diamond Princess” with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19).
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/ryct.2020200110
2) 特徴的なCT所見が報告されているが、他のウイルス性肺炎や特発性器質化肺炎、慢性好酸球性肺炎等の他疾患とのオーバーラップがあり、有病率の小さい集団においては、偽陽性例の影響が高い。
3) クラスター(疑い含む)の集団、すなわち濃厚接触者全員が対象となり、CT検査の対象が膨大となる。特にオーバーシュートが生じた際、対象者全員にCTを施行することは、診療体制に大きな影響を及ぼす。
4) COVID-19は接触・飛沫感染が主体であり、患者がCT室使用後に清潔整備ができない場合は院内感染を来すリスクもあるので、CT室の使用には慎重を期すべきである。
5) CT機器の進歩によりX線被ばく量が低下しているとはいえ、被ばくのデメリットとCTによる肺炎の診断能の両者を考慮して、スクリーニングとしての正当性を評価する必要がある。

Q3. 実臨床におけるCOVID-19に対するCTの適応は?

A3-1. 臨床医が肺炎を疑い画像診断を必要と判断した場合、院内感染対策に十分留意した上で胸部単純X線撮影で評価する。
胸部単純X線撮影では極めて早期の肺炎の検出は困難であるが、治療が必要となる胸部単純X線撮影で検出可能な肺炎患者を評価するためには、診断能と被ばくの関係から、有用な検査である。撮影にあたっては院内感染対策のため患者の動線を考慮し、動線が分けられる場合は撮影室で、動線が分けられない場合はポータブルX線撮影を活用する。

A3-2. CT検査施行の基本的な考え方を以下に示す。
CTは胸部単純X線撮影と比較して肺炎の早期診断や合併症の有無、鑑別診断に有用である。しかし、CTの診断能には限界があること、CT検査室での感染拡散のリスクや、CT装置の台数や感染症専用のCTの有無(通常の臨床的にCT検査適応のある患者のために確保しておく必要がある)、など各施設での医療業務への影響を十分に考慮し、CTの適応を判断することが重要である。臨床医がCT検査を必要と判断する具体的な状況として以下のようなものが考えられる。
1) 胸部単純X線撮影で異常影がみられ、他疾患と鑑別を要する場合
2) 臨床症状、地域の感染状況を鑑み、COVID-19が強く疑われ、PCR検査で確定できない場合であって、疾患の進行するリスクが高いと判断される場合
3) 胸部単純X線撮影で異常影がみられないが、PCR検査陽性でありCTが有用な情報を与えると考えられる場合
4) 胸部単純X線撮影の施行の有無にかかわらず、酸素化が必要な中等度以上の肺炎を疑う患者の場合

Q4. COVID-19肺炎のCT所見は?

A4-1. 典型的な所見
1) 初期は片側性ないし両側性の胸膜直下のすりガラス影、背側または下葉優位
2) 円形の多巣性のすりガラス影
3) 進行するとcrazy-paving patternやコンソリデーションなどの割合が増加
4) 器質化を反映した索状影の混在

A4-2. 非典型的な所見
1) すりガラス影を伴わない区域性の浸潤影
2) 空洞、境界明瞭な結節・腫瘤
3) 小葉中心性の粒状影、tree-in-bud appearance
4) 胸水(重症例ではみられることがある)

日本医学放射線学会:「コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019)に関する画像情報(No2)、2月21日」、日本放射線科専門医会・医会:「2019新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における肺病変のCT所見について、2月28日」、北米放射線学会:「COVID-19の胸部CT所見のレポート作成に関する専門家のコンセンサス・ステートメント、4月2日、Simpson S DO, et al. Radiological Society of North America Expert Consensus Statement on Reporting Chest CT Findings Related to COVID-19. Endorsed by the Society of Thoracic
Radiology, the American College of Radiology, and RSNA. Radiology: cardiothoracic Imaging)をはじめ、種々の報告を参照されたい。

なお本指針は暫定的なものであり、今後、感染のフェーズに応じて適宜改訂する可能性がある。

(指針作成委員)
日本放射線科専門医会・医会: 氏田万寿夫、加藤勝也、芦澤和人
日本医学放射線学会: 田中伸幸、荒川浩明
日本環境感染学会: 松本哲哉、泉川公一
日本感染症学会: 迎 寛、川名明彦

更新履歴
Ver.1.0 2020/4/23