公益社団法人 日本医学放射線学会

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2020年04月21日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期における放射線診療についての提言

公益社団法人 日本医学放射線学会

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的感染拡大が続き、本邦においても一部の地域で医療提供体制が逼迫している。この前例のない医療的緊急事態のなかで最も重要なことは医療従事者と患者の安全および健康である。そのために放射線科医は、感染の防止、罹患率と死亡率の低減、医療従事者の保護、および医療提供体制の維持に努め、予想される患者急増に備えなければならない。また、COVID-19の診断はPCR法などを用いたウイルス検査により行われるが、本邦ではPCR検査体制とは十分とは言えず、COVID-19感染が疑われる患者に対する画像検査について関心が高まっている。 このような状況でCOVID-19に対する放射線診療に関するガイダンスの策定が急がれるが、これまでのところエビデンスは限られている。しかしながら、この感染症の重大性と緊急性を鑑み、現時点でのエビデンスおよび海外学会ガイダンスをもとに、ガイドラインではなく提言としてこの文書を提示する。なお、本提言は暫定的なものであり、今後の本邦におけるCOVID-19の蔓延の程度、検査体制の整備、治療薬や予防ワクチンの開発状況等によって、本提言の内容は見直されることがある。

提言

(1) 緊急ではない検査および治療を延期し、実施件数を減少させる必要がある

  • 検査および治療には、CT、MRI、超音波検査、単純X線検査、マンモグラフィ、X線透視、核医学検査、血管造影検査、画像下治療などが含まれる。
  • 検査および治療の実施や延期は、医学的観点、患者と医療従事者の潜在的な曝露からの保護、限りある医療資源の効率的かつ効果的な配分、および患者急増への準備などの観点から多角的に検討して判断する必要がある。
  • 検査および治療のスケジューリングにあたり、以下のようなカテゴリー分類も一つの目安になる。
カテゴリー定義対応
1 致命的ではなく、急を要しないもの 延期
2 致命的ではないが潜在的には生命を脅かす、または重症化する危険性があり、時間的制約があるもの 可能であれば延期
3 致命的となり得る、あるいは重大な障害を残す危険性があり、遅らせることはできないもの 慎重に実施
  • 検査および治療の時間的な制約は、放射線科医、依頼医、患者のコンセンサスにより決定する。
  • 医療従事者並びに検査室・検査機器には必要な感染予防策が適切に実施される必要があり、これを怠ると患者および医療従事者の曝露の可能性が高まる。このことを十分に考慮した上で、持続可能な放射線業務量を確保しなければならない。

(2) COVID-19のスクリーニング検査としてCTを用いることは推奨しない

  • COVID-19の胸部CTの感度と特異度は、それぞれ80~90%と60~70%の範囲であると報告されている。また、クルーズ船ダイアモンドプリンセス号でCOVID-19が確認された無症候性患者82人のCTにおいて、肺炎の所見を認めたのは54%と報告されている。
  • 現在、ウイルス検査が唯一の確定診断の方法であり、たとえ画像所見がCOVID-19を示唆するものであってもウイルス検査による確認が必要である。また、一般的にCOVID-19における画像所見は特異的なものではなく、他の感染症と重複することがある。
  • 初回ウイルス検査結果が陰性であっても、胸部CTで異常所見を認める症例が存在することが報告されている。しかし、胸部CTで異常所見を認めないことが、COVID-19の感染を否定するものではなく、それによって患者の隔離や必要な検査あるいは治療を思いとどまるべきではない。
  • COVID-19陽性または疑い患者において、肺塞栓症など治療可能な他の疾患の除外、あるいは脳卒中、外傷、感染症など、他の緊急の状態の評価を目的として緊急画像検査が必要になることはある。
  • CT検査室でのウイルス拡散のリスクもあり、各施設での他の患者の診療業務への影響も十分に考慮のうえ、CTの適応は慎重に判断することが重要である。

(3) ウイルス検査が広く利用できない状況における暫定的な対策として、COVID-19疑い患者に対する医療行為に関する意思決定のために胸部CTを利用することは許容される

  • 広くウイルス検査が利用できるようになるまで、ウイルス検査の要否、入院の要否、あるいはその他の治療の可否などに関する意思決定を行うための要素の一つとして、胸部CT所見を利用することは許容される。特に中等度から重度の症状を有し臨床的に強くCOVID-19が疑われる患者では、医学的トリアージのために画像検査を行うことは勧められる。
  • 胸部CTで正常であることがCOVID-19の感染を否定するものではなく、異常所見がCOVID-19の診断に特異的なものでもない。臨床的に必要な場合に、画像所見が正常であることを根拠に、患者の隔離や他の検査あるいは治療を思いとどまることがあってはならない。
  • ウイルス検査の利用が制限される状況では、初期の肺炎に対するCTの感度が高いことは患者の隔離を必要とする公衆衛生上のアプローチにおいて価値を持つ。

(4) COVID-19患者に対する画像検査は十分に適応を検討した上で実施する

  • 臨床所見が軽微な患者では、原則として画像検査の適応は少ないが、基礎疾患のない、あるいは若年者でも重症化する例が報告されており、画像検査の適応は慎重に検討すべきである。一方、中等度から重度の症状を有する患者および呼吸状態が悪化している患者では、画像検査を実施すべきである。
  • 状態が安定している挿管された患者に対して、毎日、胸部単純X線撮影を行うことは推奨されていない。
  • 軽度の肺炎に対する胸部単純X線撮影の感度は高くないが、症状を有する進行した肺炎では多くの場合に異常所見が認められる。隔離室で行うポータブルX線撮影は、CTへの搬送経路およびCT室での感染リスクを排除することができるため推奨される。
  • COVID-19に対する検査では、医療従事者の感染リスクの低減や医療資源の節約などの観点からも付加価値の乏しい画像検査を回避することが重要である。
  • COVID-19回復後に呼吸機能障害を認める患者では、感染あるいは機械的換気の後遺症と治療可能な他の疾患を区別するため、画像検査を行う必要がある。

(5) 検査室における感染予防策を徹底しなければならない

  • 各施設の感染制御部門と連携し、院内マニュアルに準拠して感染防御を行わなければならない。これには手指消毒などの感染防御の基本のほか、個人防護具の使用、機器等の清拭、検査室内の換気なども含まれる。特にエアロゾルが発生する手技においては、適切なPPEを使用することが強く推奨される。
  • 無症状のCOVID-19患者もいるため、特にCOVID-19流行期にあっては、通常行うべきレベルの感染制御手順の遵守を徹底しなければならない。
  • すべての画像検査対象者について、施設あるいは検査依頼科においてCOVID-19の症状スクリーニングを実施し、放射線部門において2回目の症状スクリーニングを実施することが望ましい。COVID-19陽性または疑い患者については、事前に電話連絡等を受け、患者を受け入れるための準備を整えておくとよい。
  • COVID-19陽性または疑い患者の画像検査に際して、患者動線およびゾーニング等について十分に検討しておく必要がある。

(6) 放射線部門医療従事者の感染予防策を徹底するとともに、部内に感染者が出た場合に備えて事業継続計画を立案しておく必要がある

  • 放射線部門は病院の診療において不可欠な機能を担っているため、いかなる事態でも完全に機能停止することは回避しなければならない。そのため、部内に感染者が出た場合も想定して事業継続計画を立案しておく必要がある。
  • 通常の感染予防策を徹底するとともに、社会的距離の必要性を十分に認識し、業務シフト、勤務場所などを検討するとよい。可能であれば、対面ではなくオンラインでの会議なども検討するとよい。
  • 集団感染の予防あるいは感染者が出た場合の対策として、在宅での遠隔読影システムの利用なども検討するとよい。

(7) COVID-19でみられるCT所見に習熟する必要がある

  • 他の目的で施行された画像検査において、COVID-19に一致する画像所見を指摘することは、患者の治療に寄与するとともに感染拡大の防止の観点でも重要である。

参考資料

  1. American College of Radiology HP. https://www.acr.org/
  2. Radiological Society of North America HP. https://pubs.rsna.org/journal/radiology
  3. 日本放射線科専門医会・医会 HP. https://jcr.or.jp/
  4. Society of Interventional Radiology HP. https://www.sirweb.org/
  5. European Society of Radiology HP. https://www.myesr.org/
  6. Centers for Disease Control and Prevention HP. https://www.cdc.gov/
  7. Japan Radiological Society HP. https://www.radiology.jp/english/info_covid_19.html
  8. 日本医学放射線学会 HP. https://www.radiology.jp/member_info/info_covid_19_jp_list.html